遠目でもはっきりとわかる、日を浴びていないせいで青白くなってしまった横顔。
頬が痩けて見えるのは、きっと目の錯覚ではないのだろう。
記憶にある健康的な血色をしたオビ=ワンと、目の前にいる彼とがアナキンの中で結び付かなかった。
足を床に杭で打ちつけられたかのように、アナキンは一歩も動けなくなった。
病室と廊下を隔てている扉、ここを越えてしまえば、嫌でも認めざるを得ない。
オビ=ワンの、現状を。
開き放しの扉が、アナキンを追い立てるように無言の圧力をかけてくる。
口内がからからに渇き、無理矢理に唾液を飲み込むと、ごくりと喉が鳴った。
どれだけの時間を、そのままの姿勢で、オビ=ワンを見つめていたのかわからない。
このままではいけないという思いが、覚悟を決めかねたまま足を踏み出させた。
カツンという靴音が廊下にまで反響して、反射的に体が震える。
けれど足を出した勢いを殺さずに、アナキンは自分を奮い起てて一気にベッド脇まで進む。
睡眠薬か精神安定剤でも投与されているのか、ここまで近付いてもオビ=ワンが目を覚ます気配はない。
誰かの気配が部屋の中にあるだけで、警戒して近寄らせない。
ヨーダの話に聞いていた反応がなかったことで、アナキンの中で少しだけ張り詰められていた緊張が緩んだ。
ベッドに横たわっているオビ=ワンを上から見下ろすと、余計に衰弱加減が明らかになる。
色を失った肌はかさつき、薄く開かれた唇からは水分が奪われて、痛々しく皹が入っては血が滲んでいた。
それだけでも痛ましいのに、閉ざされた目も窪み、ごっそり肉が落ちてしまっている。
「マスター…?」
指先で頬のラインを辿ると、マスターの骨張った感触が生々しくその衰弱振りを伝えてきた。
ジェダイの中でも寛容で、笑みを絶やすことのなかったオビ=ワンは、今では豊かな表情をごっそり喪失してしまったようで、たった一つの変化は開かれた唇から浅い呼吸を繰り返しているというだけだ。
ベッド脇に立掛けられている椅子をベッドに引き寄せて、アナキンは全身の力が抜けたようにドサリと座り込んだ。
右手で瞳を覆いながら、ため息を吐いて項垂れる。
実際にこの目にすると、堪えるものがあった。
何気無く動かした視線の先にあるものを認知して、アナキンの瞳に苦い表情が浮かぶ。
投げ出されるように置かれた両手首、そこにくっきりと残っている拘束痕。
相当暴れたのか、内出血し紫色に変色したそれは、作られてから日も浅いことが読み取れた。
気付けば、ベッドの両脇には今は使われていないロープがだらりと吊り下げられていた。
聞かされていたとはいえ、オビ=ワンの扱いは目に余る。
これがジェダイのすることかと、苛立ちと怒りの感情がないまぜになって沸々とアナキンの中に生まれては消えていく。
ここで苛立ちを爆発させたところで、結局はアナキンもこれ以上の扱いをすることができないのだと、冷静な思考が煮えたぎっている感情を氷結させていた。
オビ=ワンの艶が失われた髪を、そっと指先で額から払う。
二度三度と撫でるように手を動かすと、閉じられたまぶたの下で微かに瞳が揺れ動いた。
「オビ=ワン?」
ハッと気付いたときには遅かった。
覚醒したオビ=ワンは間近に迫っているアナキンの気配を感じ取ると、一瞬にして殺気立ち、触れている手を乱雑に払った。
「…ッ」
爪先が当たったのか、アナキンの手のひらにピッと一筋赤い線が走る。
チリチリと痛みを訴えてくる傷には構わず、両腕を振り回して暴れているオビ=ワンを制止させようと、アナキンは華奢になってしまった彼の手首を捕えてベッドに縫い留めた。
直後、声にならない悲鳴がオビ=ワンの口から迸る。
耳を塞ぎたくなるような悲痛な声に、自分のとった行動の意図することに気付き、アナキンは愕然となった。
これではまるで虐待ではないか。
アナキンに組み敷かれて、それでもオビ=ワンは微弱な抵抗を続けている。
その顔は恐怖に引き攣っていた。
「マスター、マスター…ッ、オビ=ワン…!」
怖がらせるつもりはなかった、ただあなたが苦しまないようにしてあげたいだけなのに。
拘束していた両手首を解放し、祈るような想いを込めて首筋を抱き締める。
一瞬、オビ=ワンは何が起こったのかと困惑の表情を浮かべたが、現状を理解したのか再び抵抗を始めた。
自由になった指がアナキンを引き離そうと、ローブや髪をがむしゃらに掴んでは容赦なく引くけれど、痛みに耐えながら、決して離すまいと顔を首に埋めて腕の力を込めた。
永遠に続くかと思われた攻防は、突然一方的に終焉を向かえる。
電池が切れたようにぱたりと抵抗を止めたオビ=ワンに訝しいものを感じていると、オビ=ワンは何かを探すようにアナキンの肩の辺りを指で辿り始めた。
そして不意打ちのように、くいっと一部分の髪が引かれる。
それは右側に一筋編まれているパダワンの証。
修行を共にした分だけ伸びたブレイドをオビ=ワンは握り締めていた。
「マスター」
アナキンが力を緩めてそっとオビ=ワンの表情を窺っていると、その唇が一つの単語を紡ぎ上げた。
アナキン、と。
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ようやく前進、オビも登場です
ここまで長い道程だった…!
終わりが見えてきたような、そうでないような…まだ続きます